【メルマガ】「難しいからわかりたい」を取り戻す
結果的に読み手がスカッとしたり聞き手がスッキリするのは致し方ない、というか、それはそれなりにめでたいことだと思うのですが、それを目的に書いたり話したりすると心が衰退する、というかスカスカになって考えが湧いてこなくなります。
あくまで私の印象ですが、いま日本では、無意識のうちに「早くわかりたい」という欲望が蔓延しているように感じます。
その一方で、衰退しつつあるのが「難しいからわかりたい」という欲望ではないでしょうか。
難しくてわからない、理解しようとしても歯が立たない。そういうものに出会って困り果てるということは、本来、人生の最高の幸せの一つであるはずなのですが、それを楽しむ余裕が失われている。
いやもっと精確に言ってみましょう。「難しいからわかりたい」ということそれ自体が楽しい、しかもそれが、誰にも奪われないほど充実した時間であるという経験を、我々は忘れてしまっているのです。
実は誰しもが、そういう経験を持っています。たとえば赤ん坊の頃、あの小さな脚で、大きな頭をもたげて必死で立とうとして何度も尻餅をつく。あるいはスプーンや箸を使えなくて食事をこぼし、ひっくり返してしまう。
しかしどれほど失敗しても、めげて、やる気をなくして二度と取り組まなくなる赤ちゃんはいません。一晩眠ればもう一度チャレンジする。飽くなき挑戦を繰り広げて、克服してきた結果が、いまの私たちなのです。
私たちはいま、過去のひたむきさと切り離されて日々を過ごしています。そして我々は、息をつなぐために、「藁(わら)」のような言葉を求めるようになった。とうぜん藁の効用は長続きはしません。「わかりやすさ」が求められる時代というのは、もしかしたら精神の窒息段階なのかもしれません。
しかし、「自分のことはわかり切っている」と思っていることほどの絶望はありません。それは本当に思慮が足りないと言わざるをえないでしょう。
いろんな状況の中で思わぬ自分に出会う。誰かと話をするだけで、触発されてやる気がめきめき目覚める。あるいは批判されて落ち込むけれども、そこでなにくそっと潜在力が目覚めて、一皮むける。「自分」は意外性のかたまりなんです。
そう気付けば、それらの集合である世界に対してもそう思えてくる。好奇心が生じる。
そしてその好奇心はほどなく、他人に対する感情移入や情熱、慈しみに変わるのです。
名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)
2018年2月19日 Vol.166
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今週の目次
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00【巻頭言】「難しいからわかりたい」を取り戻す
01【性格分類】名越式性格分類ゼミ(通信講座版)テキストVol.2の一部公開と第12次募集のご案内!
02【カウンセリングルーム】※今週はおやすみです
03【pieces of psychology】文化の役割/生きることの意味/沈黙とは、語らせ、語るためにある/楽しさがわかると/飽きるということ
04【読むこころカフェ】
・人を原因論から目的論へと導くカウンセリング
05精神科医の備忘録 Key of Life
・今年は映画だ!
06講座情報・メディア出演予定
【引用・転載規定】
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最初にお届けする2018年3月号では、昨年より通信講座会員向けに配信しているテキストの2号め「9種体癖」をお届けする予定です!
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るいはその他講義を収録・編集したものです。
・名越式性格分類ゼミ(東京・巣鴨で開催)に会員割引で優先申し込みできます。
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※通信講座の概要、お支払いに関するご質問等はサイトの「よくある質問」
https://yakan-hiko.com/meeting/nakoshi_faq.html
もご参照いただければ幸いです。
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