【メルマガ】名越心理学のめざすところ
「聴く力」は希少
前回「聴くことの力」という記事でも少し触れましたが、「人の話を聴く」というのは、実は人間が生きるための本能レベルからはちょっと乖離した、より成熟した段階で獲得できる能力だと僕は考えています。
聴くことの力(名越康文メールマガジンVol.177 2018年8月6日号)
そのことがよくわかるのは、「聴く力」というのは、本人というよりは、周囲の人の力を伸ばす能力であることです。聴く力を持つ人がひとりいるだけで、その集団の個々の能力は伸びるし、成果もどんどん上がっていく。聴くことには、そういう力があるんですね。
たぶん、これを読んでいる人の多くが「聴く」という行為について、なんとなく受け身な印象を持っていたんじゃないかと思うんです。でも、実は聴くことには、相手の能力を伸ばすっていう、非常に積極的で、能動的な効用がある。
でも、それだけに、そんな能力を持つほど成熟した人間というのは、それほど多くはおられません。ですからもしみなさんが、誰かに話を聞いてもらうことで、勇気づけられたり、自分の力が伸びたと感じた経験があったとしたら、それはとてもラッキーだし、貴重な経験だった、と考えてください。
特に現代は、「表現する」っていうことが非常にもてはやされている時代ですからね。こういう時代において「聴く」という、ちょっと地味な能力を伸ばしている人って、そうは多くないはずです。
心には「時間軸」がない
というわけで、前回のおさらいはここまでにして、今日は「心」についてお話しようと思います。
心について、一般の方がまったくご存じない特徴のひとつは、「時間、空間が入り乱れている」ということです。もうちょっとはっきりと言い切ってしまうと、心の世界には「時間」というものがない。あるいは「時間の流れ」が現実の世界と異なっている、という言い方でもいいかもしれません。
私たちは普通、「時間割」や「スケジュール」といった枠組みをあてることで、時間を捉えています。「〇時にお風呂に入ろう」とか「来週の〇曜日は旅行に出発する日だ」というような捉え方です。いろんな時間の捉え方があるにしても、私たちがみな、こうした時間軸のなかで日々の生活を送っていることは、おそらく間違いないでしょう。
なにしろ、このように時間を捉えるのは便利なんです。「今から30分後に駅で待ち合わせね」というようなやりとりが成り立つには、この時間軸で捉える時間感覚を共有していなければいけません。
わざわざこんなお話をするのは、こういう時間軸とか、スケジュール表にのっとった時間というのは、きわめて文化的、社会的なものであって、僕らの原初的な心の世界には存在しないものなんだ、ということをわかっていただきたいからです。
実際には、私たちの過ごす時間は一定ではありません。
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名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)
2018年10月15日 Vol.182
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今週の目次
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01【ピックアップ】「伝える力」を伸ばすには?
02【心理学】名越心理学のめざすところ
03【カウンセリングルーム】
[Q]ホラーに対する恐怖心について
04【pieces of psychology】
<心が止まってしまったら/寝る時間と起きる時間/さみしさと悲しさ>
05【読むこころカフェ】
・「助言を受け入れられる自分」でいるために
06精神科医の備忘録 Key of Life
・バーディックバンド@吉祥寺マンダラ2
07講座情報・メディア出演予定
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