樫の木と葦(新刊『仕事で折れない心のつくりかた』より)


イソップ童話に「樫の木と葦」というお話があります。ほんの少しの風にも首を垂れてしまうナヨナヨとした葦を見て、樫の木は「なんだ情けない。俺はどんな風がきても平気だぞ!」と威張っています。

 

そこへ大きな台風がやってきます。葦は大風に吹かれて地面に這いつくばったようにしなっていますが、持ち前のしなやかさでなんとか一晩やり過ごします。

 

樫の木は「なんだこんな風くらい!」と踏ん張りますが、一夜が明け、台風が過ぎ去ってみると、見事に根本からバキバキバキッと折れて倒れてしまっています。その横で葦は何事もなかったかのように、風になびいている。そんなお話です。

 

長年精神科で心の問題を抱えた人を見ていて感じるのは、「本当の自信」というのは、「樫の木」ではなく、「葦」のようなあり方にこそ宿るものなのではないか、ということでした。

 

心が弱って、物事に前向きに取り組めない。暗い気持ちがいつまでも晴れない。そういう人は実は、「樫の木」のように強くありたい、社会の中で勝たなければいけない、負けてはいけない、という思いにとらわれていることが多い。

 

そういう思いにとらわれている人ほど、ちょっとしたきっかけで、それこそ「根本から折れてしまった樫の木」のように、ひどい状態に陥ってしまうことがあるのです。

 

精神科医としての私の経験から申し上げると、だんだんと元気がなくなり、弱っていってどうにも動きが取れなくなってしまう……、という人は、実はそう多くありません。たいていの場合、一見元気で、むしろ周囲からは前向きで、元気に生きていると思われていた人が、ちょっとしたきっかけで心のバランスを大きく崩してしまい、周囲の人が驚いてしまう……。そんなケースのほうが、圧倒的に多いのです。

 

社会に適応することによって積み上げた自信というのは、童話の「樫の木」のような脆さを抱えているのです

 

では、樫の木のような(脆さを内包した)「強さ」ではなく、葦のような「しなやかさ」を持った自信を身につけるには、どうしたらいいのでしょうか?

(続きは本書で)

 

2年ぶりの新刊が出ます!
仕事で折れない心のつくり方』名越康文著

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「なんか調子が悪い」「この仕事向いてないかも」「やりたいことがわからない」――仕事をしていても、日常生活でも、なんとなく心にモヤモヤしたものを抱え、このままでいいのだろうかと不安を抱えているビジネスパーソンが増えている。本書では、精神科医の名越康文先生が、そんな現代人が抱えるモヤモヤの正体を明らかにし、自分自身をどのように受け止め、肯定していけばよいのかをわかりやすく解説。仕事との向き合い方から、他者とのかかわり方まで、「折れない心」をつくるためのコツを指南する。