【スペシャル対談Vol.3】名越康文×しいたけ「僕らが「友だち」からもらったもの」(第1回 「手土産」と「誕生日」と「ハワイの話」から友だちについて考えてみる)
突然彗星がごとく現れた噂の占い師、しいたけさんとの対談シリーズ第3弾。
「運命」というテーマに基づいての最終回です!
<前回のシリーズはこちら>
【スペシャル対談Vol.1】名越康文×しいたけ「もう一度誰かを好きになるために必要なこと」
【スペシャル対談Vol.2】名越康文×しいたけ「運命をつかむ人ってどんな人?」
<第1回>「手土産」と「誕生日」と「ハワイの話」から友だちについて考えてみる
■義務感が出てくると「友だち」がしんどくなる
–今日はお二人に「友だち」についてお話を伺いたいと思っています。
しいたけ.:友だちか友だちじゃないかということが、そもそも簡単じゃないような気がしていて。たとえば、どんな親しい関係性のなかでも「義理のおつきあい」みたいなものが生じることってあると思うんですよ。
「借りをつくったら、どこかで返さなきゃいけない」というような。それで僕は、そういう義理のおつきあいが出てくると、「友だち」でい続けることが難しくなっちゃうんじゃないかって思っていて。
名越:具体的にはどんな場面ですか?
しいたけ.:若い人からの悩み相談で多いのは、やっぱり「LINEで友だちからあるときから、返事が返ってこなくなった」ということだったりしますね。「そう感じるときもある」というぐらいならともかく、そういう義理みたいなものを、互いに強く求めるようになると「友だち」っていうより、ちょっとビジネスパートナーに近くなるのかもしれない。
「あなたにはこれだけのことをしてあげたのに、なんで返してくれないの?」というのって、すごく利害関係が生じている感じがあって、そうなると「友だち」でいることが難しくなるんじゃないかって。
名越:確かに、利害関係があまり強くなってくると、「友だち」っていう感じじゃなくなってしまうかもしれないですね。
僕は、「友だち」というのは、損得勘定じゃなくて、もう少し発作的に、とくに理由もなく「なんかいいことをしてあげたい」って思う相手、というふうにとらえています。
「もらったから返さなきゃ」ということもないし「これで貸し借りをチャラにしよう」ということもない。あるとしても、もう少し長い目で見てバランスをとる。そういう関係性が保たれていると「友だち」という感じかな。
ただね、僕も含めて、友だちとビジネスパートナーの境界線って、あいまいなものなんじゃないか、とも思うんです。
僕自身、6年ぐらい親しくつきあっている友人がいるんですけど、相手に何かしてもらったりすると、やっぱり「お返ししなきゃ」って思うんです。別にそれで、友人関係が壊れるわけではないんですよね。だから、「腹を割って話せる関係だ」と思いながらも、ビジネスパートナー的な関係性もある、というパターンもあるんじゃないかな。
■友だちに「手土産」を持っていっていいのか
しいたけ.:最近、「ああ、これって難しいなあ」と思う経験が僕自身もあって。通っていた美容室が閉店することになって、ずっと担当してくれていた人が、別のお店に移ることになった。だから、その美容室に通おうと思っていたら、その人は女性専門フロアに配属されることになったんです。
つまり、僕はもう、その人に髪を切ってもらうことができなくなってしまった。
名越:それは困るね(笑)。
しいたけ.:ずっとその人に髪を切ってもらっていたので、僕もすごく残念で。そのこと自体は、まあ仕方ないんですけど、最後に会うときに「手土産を持っていくべきか」という問題が生じたんですよ。
名越:なるほど、閉店する前に。
しいたけ.:僕自身は、そんなこと思い浮かばなかったんです。でも知人から「お世話になったんだから、手土産のひとつも持っていけよ。大人だろ」と言われて。確かに大人としては、「お世話になりました」という思いを込めて持っていくべきなんじゃないかと。
名越:「大人」という言葉を持ち出されると、やらないわけにはいかない(笑)。
しいたけ.:でも、僕の中では、その美容師さんは「友だち」で。手土産を渡してしまうと、その美容師さんとの関係が、利害関係になってしまう気がしたんです。
名越:ものすごくわかりますね。
しいたけ.:いったい、どっちが正解なんでしょう?(笑)
名越:そもそも、美容師さんとの関係って、ちょっと特殊というか、不思議なものなんですよね。最初はビジネス的な関係性のはずなのに、友だちに近くなっていくというか。
僕も長いこと同じ美容師さんに切ってもらってますけど、確かに僕の中では、その美容師さんは「友だち」になってますね。だから、同じ状況に置かれたら、やっぱり手土産を渡すのは「気恥ずかしい」と感じるかもしれません。
今の話でちょっと思い出したんですけど、バンド仲間のライブを聴きに行ったとき、楽屋に通されたら、ものすごく有名なアーティストの方が来ていたんです。
しいたけ. :はい。
名越:それで、ふと気づくと、自分は手土産も何も持っていないことに気づいて。
しいたけ.:ああー、それはなかなか精神的にキツいですね(笑)。
名越:そのときはまだ、バンド仲間とも会って間もない頃だったんです。でも「もうこの人たちとは友だちだから、手土産なんかなくたっていいんだ」とどこかで自分に一生懸命言い聞かせていたことを思い出しました(笑)。
確かに、手土産というのは「友だち」と「ビジネスパートナーの境界線上にあるものかもしれないですね。
■「手作りのおはぎ」の過剰なパワー
しいたけ.:手土産って「渡さないと大人として失格」「渡して損するものじゃないから、渡しとこう」みたいなところがありますよね。でも、場合によっては、あげる方ともらう方、お互いにとって余計なプレッシャーになっているケースも多いと思うんです。
名越:それはありますね。
しいたけ.:ここだけの話ですが、僕、「手作りのおはぎ」が苦手なんです。
名越:手作りのおはぎ?
しいたけ.:親戚とかだったらいいんですが、知り合いで集まったときなんかに、突然「これ、○○さんが作った、手作りのおはぎですよ。みんなで食べましょう」って出されると、僕は何だか「うわー」となってしまって。
名越:めちゃくちゃわかります(笑)。
しいたけ.:過剰なパワーを感じてしまうというか、どうしていいかわからなくなってしまうんです。
名越 難しいよね。「手土産は持っていくけど、特にお返しは考えない」ぐらいならいいんですけどね。こちらが持っていく立場になったときも、変にお返しをもらうような関係になると、それこそ力士の階級みたいに、自分はいま「序の口」なのか「序二段」なのか、はたまた「十両」なのか? って悩んでしまいますよね。
……念のために言っておきますけれど、「手作りのおはぎ」が悪いわけじゃいんですよね(笑)。
しいたけ.:もちろんです!(笑)
名越:人と人との関係って、固定したものじゃなくて、揺らいでいるものですよね。だから、「手作りのおはぎ」にしても「ちょっとしたお菓子」にしても、アイテム一つで相手との関係性の、微妙なニュアンスが変化してしまうことがあるということですよね。僕らはまさに、その狭間を縫うようにして生きているんじゃないかなあ。
しいたけ.:まさにそうだと思います。
名越:今の若い人は、あまり「手土産」で悩んだりはしないかもしれないけれど、さっきおっしゃっていたLINEの返信の話は、実は「手土産」問題が、そのままスライドしている感じなのかもしれないですね。
「相手が送ったらこっちも返さなきゃいけない」というのではなくて、もうちょっと微妙な力加減が求められている。だからけっこう、気を遣って大変なんですよね、多分。
■「誕生日を祝われる」のが苦手
しいたけ.:距離感の話で、僕は「ああ、その距離感でつきあうのは無理だなあ」と思ったことがあって。
長く東京に住んでいると、やっぱり地方ののんびりした暮らしや、地域ならではのコミュニティに憧れる気持ちがあったんですね。地方もいいな、と。
それで、実際「将来はどこに住もうかな」と思案していた時期があったんです。仕事でよく沖縄から北海道まで、地方に出張に行くので、そういうときに「ここがいいかな」「ここなら住めるだろうか?」と思いながら。
でも、そこに実際に住めるかとなったときに……。ある人に「ここでは毎年、必ず全員の誕生日を祝ってパーティーをやるんです」ということを聞いて、諦めたんですよ。「そういうのはちょっと無理だなあ」って。
名越:それは僕も無理だなあ(笑)。
しいたけ.:「サプライズパーティーで誕生日をみんなに祝われる」って、僕がこの世で一番苦手なことなので。本当にどう対応していいかわからないんですよ。そういう場面で、僕はきっとすごく居心地の悪さを感じるだろうし、それは雰囲気でやっぱり伝わってしまうだろうし。
名越:誕生日のサプライズパーティー、僕も経験したことがありますよ。心理学の講座をやっていたときに最後にサプライズで電気が急に消えて、バースデーソングの中ケーキが出てきた。大勢の人から感謝の言葉を書いたカードを渡されて。
しいたけ.:いかがでしたか?
名越:そのときは「もう二度とやめてほしい」って言いました(笑)。いや、有り難いんですけど、心臓が持たないと思って。ただ、最近は同じようなことがあっても、「ありがとう」と言えるようにはなったんですよ。僕も、成長したんです(笑)。
そういえば先日、別の場所でも誕生日を祝われたんですが、そのときは、明らかにコンビニで買ったショートケーキが、A4の用紙を挟むバインダー下敷きの上に乗って運ばれてきたんです。
しいたけ.:あ、それはいいかも(笑)
名越 そうなんですよ。「あ、そういえば!っていう感じで準備しました」というライトなのが、僕はかえってうれしくて。はじめて素直に「祝われるのが嬉しい」と思った瞬間でした。みんなで「これ何だよ!」とか言いながら大笑いしてケーキを食べるのが、楽しかったんです。
僕の感覚ではそれぐらいがちょうどいい。それ以上のおもてなしをされると、恐れ入ってしまいますね。
■「この人の前でハワイの話をして大丈夫か」
しいたけ.:一口に「友だち」言っても「あくまで社交としてつきあう」場合と「本当に気の置けない関係として付き合う」場合があるじゃないですか。
それで、「社交として付き合う」段階から「気の置けない」「腹を割って話せる」段階に移行する時に、どういうステップを踏むかっていうのが問題だと思っていて。
難しいなと思うのは……(続きはメルマガをご覧ください)
名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)
2019年4月15日 Vol.194
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今週の目次
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01【巻頭言】平成の終わりとともに、「パワハラ」を生む構造から旅たとう
02【スペシャル対談Vol.3】名越康文×しいたけ「僕らが「友だち」からもらったもの」(第1回 「手土産」と「誕生日」と「ハワイの話」から友だちについて考えてみる)
03【カウンセリングルーム】※今週はお休みです。
04【pieces of psychology】<神経症とはなにか/なんと人間は危険なものか>
05精神科医の備忘録 Key of Life
・心は関係的である
06講座情報・メディア出演予定
【引用・転載規定】
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